【日本産科婦人科学会】「医師の働き方改革に関する検討会」への意見と要望 2019/01/21 up!
【概要】
平成31年1月18日
厚生労働大臣 根本 匠 殿
公益社団法人 日本産科婦人科学会
理事長 藤井 知行
「医師の働き方改革に関する検討会」への意見と要望
「時間外労働の上限設定においては、いわゆる過労死ラインを大きく超えないことを要望します。」
現在、「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、「検討会」)において、勤務医の時間外労働の上限に関する検討が行われています。今後の検討に際して、わが国の産婦人科学・産婦人科医療に責任を有する基本領域学会として、意見と要望を申し上げます。
多くの調査によって時間外勤務が最も多い診療科が産婦人科であることが明確になっています。平成29年度には産婦人科医専門医研修を行っていた医師の自殺が、長時間労働による精神疾患を発症したことが原因として労災認定されたことが報道されました。わが国の産婦人科勤務医の中には、「過労死」が実際に発生しているきわめて過酷な勤務条件下で勤務している医師が現に存在しているのです。平成31年1月11日の検討会では、時間外労働の上限の検討の過程で、いわゆる過労死ライン(脳・心臓疾患に係る労災認定基準)を大幅に超える設定が検討されております。
平成26年6月に過労死等防止対策推進法が全会一致で可決、成立し、同年11月に施行されました。この法律に基づいて「過労死等の防止のための対策に関する大綱 ~過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ~」(以下、「大綱」)が国の基本方針として制定され、平成30年7月に最新版が示されています。大綱には、いわゆる過労死ラインについて「脳・心臓疾患に係る労災認定基準においては、週40時間を超える時間外労働が1か月間におおむね45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まり、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」と、長時間労働と重大な健康障害の間の関係が明確に記載されています。時間外労働の上限設定に際して、この過労死ラインを大幅に超えるような例外規定を設けることは、過労死等防止対策推進法の精神及びそれに基づく大綱の考え方に反することになるのではないでしょうか。
現在、全国の病院では平成30年2月に検討会が示した「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」に基づいて労働時間短縮に向けた取組を進めています。また、診療科の特性を踏まえた取組として産婦人科では、平成30年9月1日に日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会共同の宣言・提言を発表しており、そこで示された労働時間の短縮に取り組んでいます。このような取組の最中に、5年後以降の時間外労働の上限として、過労死ラインを遥かに超える時間数が示されることは、各医療現場の改革努力に水を差すばかりでなく、これから専門とする診療領域を選択する医学生・初期研修医にとって、長時間労働改善の見通しがないということを示唆することになると考えられ、結果として産婦人科を志望する医師の減少につながることが強く懸念されます。
以上のような理由で、わが国の産婦人科医の大多数が参加している基本領域学会として、時間外労働の上限設定においては、いわゆる過労死ライン(脳・心臓疾患に係る労災認定基準)において示されている時間外労働の目安を大きく超えるようなことがないようにご配慮いただきたく、要望いたします。
以上
添付資料
1)平成 29年 8月 13日 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会 声明:「日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会は分娩取り扱い病院における産婦人科勤務医の一層の勤務環境改善を求めます。」
2)平成30年9月1日 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会 「産婦人科医の働き方改革」 宣言と提言
参照サイト:日本産科婦人科学会
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