周産期医療の広場 トピックス

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平成20年度ー22年度 厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)総括研究報告書「わが国における新しい妊婦健診体制構築のための研究」   2011/06/20 up!

【概要】
平成20年度ー22年度 厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)
総括研究報告書
わが国における新しい妊婦健診体制構築のための研究



主任研究者:松田義雄 (東京女子医科大学産婦人科教授)


研究要旨

 本研究の目的は, 多施設による周産期のデータベースを可能な限り解析することで, 妊娠高血圧症候群や常位胎盤早期剥離などの産科合併症の発症に関与するリスク因子と重要な週数を抽出し, さらに胎児発育などの情報も含んだ情報の一元化を試みて, 母子健康手帳の母体―胎児情報を充実させることである. 加えて, 妊婦自身による「妊娠リスク評価」と本人が医療関係者と情報交換できる項目を母子健康手帳に盛り込むことにより主体性を持たせる.また, 妊婦健診や未受診妊婦の要因を分析し, 妊婦健診体制の充実を図ることで, 妊婦の安全性を担保し, 全ての地域で実施可能な妊婦診療体制を構築することを目的とする. そして, 「リスクの有無」で妊婦をトリアージし, 妊婦健診を多職種間で協働管理することを加味した新たな健診体制を提案する. 同時に, 妊娠合併症の発症予知に関し, 精度が高く簡便で感度の高い, 母体血による早期診断システムの有用性を検討する.
 上述の目的において, 母子健康手帳の改良に必要な情報(主な産科合併症のリスク因子の表記, 胎児発育曲線, 妊娠リスク評価, 対話欄)を入れた補足版の作成を完了し, 各方面からその有効性に関する検証を行った. 新たな健診体制の構築に当たり, 助産外来のあり方, セミオープンシステムの現状と利用者からの検証, 一次施設での健診体制の実態調査, 未受診妊婦の問題点と解決策を検討した. 
 医療体制や社会環境も違う海外からの研究成果は, わが国の実情にそぐわないことが多い. 妊婦健診の方法や妊娠管理の方法に若干の相違があるからである. このような妊婦健診システムの充実によって, 産科合併症の予防あるいは早期治療が可能となり, ひいては母体死亡の数を減少させるだけでなく, 周産期救急医療体制を補完することにも繋がる. それらを通じて国民医療費の削減にも大いに貢献することが期待される.

研究1:母子健康手帳の充実と将来的活用に向けた提言
 
 わが国における5年間約24万例のデータベースを基にしたケース・コホート研究で, 主要産科合併症のプロファイルを明らかにした. そして, それらの発症につながる因子のリスク比を明らかにし, 一般に分かりやすい表現にした.
 また,日本超音波学会作成による胎児発育曲線を用いることを決定した上で, 超音波検査は発育評価の観点から最低5回(妊娠9,12,20,28,34週頃)を妥当とした.
 これらの情報に, 妊婦自身による「妊娠リスク評価」と, 「健診前のチェック」「妊娠の初めの頃, 半ば頃, 後半の頃のチェック」「出産にむけた体づくり」「バースプランと母乳育児の準備」の4項目からなる「対話欄」を加えた母子健康手帳補足版を作成し, 医師, 助産師, 妊産褥婦から意見を聞いた. その結果, どの対象でも補足版を有用とする意見が7割以上となった. また, 対話欄を利用することで, 妊婦のセルフケア行動が高まり, 妊婦の意識が向上することも明らかになった.
 母子健康手帳に関するシンポジウムと, 一般を対象としたアンケート調査を行った結果, 「健診の補助的なもの」と考える医療従事者と,「記載が不十分」と考える妊婦間の大きな隔たりが浮き彫りとなった.
国内外の疫学研究事例から,周産期情報の疫学研究への利用可能性を検討した. その結果,わが国の人口動態調査出生票では,記載される周産期情報は限られ,また各個人の情報請求ができないなど利用可能性は乏しい. 一方,本邦成人を対象にしたコホート研究での出生時情報の回答率を検討したところ,昭和40年以降に生まれた女性では約3/4で有効回答がなされていた。これらから,わが国の疫学研究においても,データベースが必要であるが,母子健康手帳がその有効なデータ源になると考えられた.
 具体的には母子健康手帳の記入に始まる医療, 健康情報を2次元バーコード(QRコード)に出力し, 母子手帳に付属するデータ手帳に発付し, その後のデータ管理を一元化するシステムである. 本システムは基本的に患者主体で健康管理データを個別に利用者側で管理する方式で, 従来の医療側からみたIT化とは異なる手法である. 必要時に医療側でバーコードを読み込むことが可能, 同意を得て必要時にコホートデータとして収集が可能, 医療情報の患者側入力や自己管理が可能である. そして長期に保存される母子健康手帳と一緒にデータもが保管されるため, 世代間をつなぐ, すなわち親から子そして成人へ連続する健康管理データベースやナショナルデータベースたりうるpopulational データベースの構築も可能となる.

研究2:妊婦健診体制の検証

 わが国の産科医療の現状は, 産婦人科新規専攻医は漸増傾向にあり, 産婦人科医の減少には歯止めがかかりつつある. 女性医師の占める割合の増加とともに産婦人科医の性別・年齢構成は急速に変化している. 産婦人科医の新たな男女・年齢構成とそれに伴うwork-life balanceの変化に即した, 持続可能な産婦人科医療提供のあり方の検討を早急に行う必要がある. 産婦人科医の勤務環境改善は, 取り組みは進んでいるがまだその効果が明確に現れる段階には至っていない.
 診療所入院の割合と都道府県における一人当たりの入院日数が相関することから, 周産期医療の集約化が医療費の節減に繋がる可能性があることを示した.
 健診体制の現状を明らかにする目的で, 全国の一次診療施設でアンケート調査を二年続けて行った所, ほとんどの医師が超音波検査を含めた健診を毎回行なっている一方で, 医師以外の超音波検査施行率や助産師外来の導入は2割前後に留まっていた. このような実態は, 妊婦側には4割に上る不満感を与える一方, 約1/4の医師が過重労働によると思われる妊婦健診や超音波検査を負担に感じていることが明らかとなった.
 「産婦人科診療ガイドライン産科編2008」(ガイドライン)において指示されている妊婦健診時に施行すべき項目について, 施行頻度を調査したところ, 調査の2年目には施行率は上昇したが、未だ5割程度と不十分な項目も認められた.
 妊婦健診において, 助産外来の試行回数を検証したところ, 5~6回(妊娠10,16,24,30,36, 38週頃)が妥当であり, 出産後もマタニティブルーやうつ傾向、育児放棄、虐待などが起こる可能性が高いので、それらのリスクを有する褥婦を継続して支援していくことが必要と思われた.
 セミオープンシステムは, 妊婦の間にも普及しつつあり, しかも満足度も7割前後得られていた. システムの運用によって医師の負担軽減のみならず, 周産期救急搬送そのものを減少させる可能性が示唆され, 医療の標準化, 妊婦トリアージを可能にしてゆくものと推察された.
 未受診分娩の問題は経済的理由以外にも多岐に渡っているため, 医療機関と福祉事務所が連携し,妊婦の状況に応じた支援策へ繋げることが重要であると考えられた.その解決策の一助として, 福祉事務所へのアクセス方法が検討され, 医療機関と行政機関が連携して,妊娠・出産に関する支援の情報を提供するために,新宿区と一緒になってリーフレットを新たに作成した.

研究3:妊娠初期のハイリスク妊婦の抽出法の検討:ハイリスク妊娠発症予知マーカーの開発

 将来妊娠高血圧症候群を発症する妊娠初期の絨毛の病態変化に, 抗血管増殖因子の産生増加、抗酸化ストレス因子の産生低下が関与していることを明らかにし, その変化を母体血cell-free RNAや細胞成分由来RNAを用いて評価した. 妊娠10-14週の妊娠初期の母体血でも絨毛変化をモニターできることを発見するとともに,これらが妊娠高血圧症候群の発症予知に利用可能なことを示した. さらに, この病態変化に絨毛の酸化ストレスが関与しているとの仮説の下に, 抗酸化剤の投与による妊娠高血圧症候群発症予防効果と絨毛遺伝子発現に与える影響について検討したが, 抗酸化剤投与でその発症が抑制できることを示すとともに, 抗酸化剤投与中に母体血でモニターした抗酸化因子の発現は上昇し, 抗血管増殖因子の発現が低下した. これらのことから, 妊娠高血圧症候群のハイリスク妊婦の抽出が可能で, 抽出した妊婦に抗酸化剤を妊娠初期から投与することで発症予防もできることを確認した.
高年齢, 妊娠中期の平均血圧高値, 子宮動脈血流速度波形の両側拡張早期切れ込み波形は早産となる妊娠高血圧腎症のハイリスク因子であった. また, 妊娠中期の平均血圧高値は, 正期産妊娠高血圧腎症のハイリスク因子でもあった. このように, 妊娠中期の平均血圧高値は妊娠高血圧腎症発症の時期を問わず, 最も重要なリスク因子であり, そのcutoff値としては92mmHgが適切と考えられた. この平均血圧値は, およそ収縮期血圧120mmHg, 拡張期血圧80mmHgの妊婦に相当する値である. また, 血管新生関連因子は, 妊娠20-23週の妊娠中期以降, 早産および正期産妊娠高血圧腎症のハイリスク妊婦を抽出するために用いることができることが示された. 特に, 妊娠27-30週にsEngあるいはsFlt-1/PlGF比を測定すると, 早産となる妊娠高血圧腎症を後に発症する妊婦を高いオッズ比で抽出できることが明らかになった. これら一連の結果は, 妊婦健診において, 平均血圧92mmHg以上(血圧が120/80mmHg以上に相当)を呈する妊婦を高血圧腎症発症のハイリスク妊婦として認識することが重要であることを示唆しており, この情報を母子健康手帳に入れ込むことも重要と思われた.

 これらの研究成果を基に, 「新しい妊婦健診体制」を構築するにあたり, 以下の提言をする

(1)あらゆる医療関係者が積極的に関わりあえる妊婦健診の協働体制を提案する
   そのために, 助産外来とセミオープンシステムを積極的に導入する

(2)現行の母子健康手帳に「妊婦自身による妊娠リスク評価」,「胎児発育曲線」,「対話欄」などの情報ツール機能を充実させる

(3)未受診妊婦を減少させるためには, 行政機関と連携して, 社会的リスクを抱える妊婦に妊娠中から積極的に働きかける

(4)将来的には, 「妊婦健診」を生殖可能年齢にある女性のライフサポートの一環と捉え, 妊娠前から分娩後までを含めたトータルケアとすべきである
  • 松田班総括報告書3年分最終-2.pdf